「SPY×FAMILY」の第39話のあらすじと感想(ネタバレあり)
〈雷〉を回避せよ
イーデン校に「トニトおばさん」ことシュラーク先生が視察にやってきます。
校則に厳しい彼女は、アーニャたちのクラスでも持ち物検査を実施することに。
ハンカチを忘れて焦るダミアンに、2枚持っているからと手を差し伸べようとするアーニャですが、
そこから一悶着が起こります。
■■■■の記憶Ⅰ
物語は一転し、これまで謎に包まれていたロイドの少年時代へとさかのぼります。
舞台は西国東部の小さな町。
まだ「ロイド」という名前も持たない少年は、友達との兵隊ごっこに夢中で、知恵と統率力から仲間内で「参謀」と呼ばれ慕われる存在でした。
父との間にはどこか張り詰めた空気があり、
「自分は東の悪人をやっつける」と勇ましく語る少年に対して、父は平手打ちと厳しい言葉で現実を突きつけます。
ある日、少年は兵隊セットが欲しくて、父に「参考書代」と偽ってお金をせびってしまいます。
その罪悪感でご飯の味さえ分からなくなるほど後ろめたさに苛まれますが、
これこそが後の〈黄昏〉としての人生を決定づける、最初の「嘘」でした。
一方で、コロッケ屋のおばさんからは
「戦争なんてくだらない、銃よりコロッケを持っているあんたの方がずっと好き」と温かい言葉をかけられ、
少しずつ染まりかけていた少年の心が救われる一幕もあります。
しかし、そんな穏やかな日常は突如として終わりを告げます。
町は砲撃に見舞われ、平和だった生活は一瞬にして戦火に包まれてしまいます。
皮肉なことに、後ろめたさを抱えながら手に入れた兵隊セットのヘルメットが、
飛んできた瓦礫から少年の命を守ることになるのでした。
前半と後半の落差に、あらためて言葉を失いました。
ハンカチ一枚で右往左往する学園コメディから、
少年が生まれ育った町ごと戦火に呑まれていく展開へ——このギャップこそが、
この作品の恐ろしさであり真骨頂なんだと感じます。
特に印象に残ったのは、ロイドの「最初の嘘」が、スパイとしての壮大な嘘ではなく、
兵隊セットを買うために父についた子供らしい、ちっぽけな嘘だったという点です。
それでご飯の味も分からなくなるほど罪悪感を抱く生真面目さに、
彼の本質的な誠実さが表れているように思いました。
そしてその嘘の産物であるヘルメットが、皮肉にも彼の命を救うことになる。
因果というものの残酷さと不思議さを同時に突きつけられるような展開で、胸に刺さりました。
コロッケ屋のおばさんの言葉も心に残ります。
国全体が戦争に向けて空気を作っていく中で、市井の人が発するささやかな一言が、
染まりかけていた少年の心を引き止める。
大きな理念やプロパガンダよりも、こういう名もない優しさの方が、時に人を正気に戻す力を持っているんだなと感じさせられました。
平和だった日常が、何の前触れもなく一瞬で戦場に変わってしまう恐怖の描き方も見事でした。
ロイドがのちに「子供たちが笑って過ごせる世界のためにスパイになった」と語る、
その原点がここにあるのだと分かると、これまで見てきた彼の行動原理すべてに、
重みのある裏付けが与えられたような感覚になります。
コメディの仮面をかぶった作品が、ふとした瞬間に本気で戦争の理不尽さを描いてくる。
その振れ幅の大きさに、あらためてこの作品の懐の深さを感じさせられる回でした。